嫁の優しさに感動。
嫁はR君が入学してから今年の5月中旬ぐらいまでの約1年と1ヶ月の間、毎日登下校に付き添っていた。R君の発達障害では、親のサポート無しでの登下校は無理だったからだ。毎日、雨の日も風の日も、台風の日も雪の日もずっと付き添って行ってきた。車で送ってしまえば楽だし、実際同じような障害を持つ子の親でそうする人も多かったのだけれど、それではR君のためにならないと、辛抱強く歩いて送り迎えをしてきた。毎日いい運動になると強がりを言っていたが、実際はかなり大変だったと思う。おかげで学校でもちょっと名の知られたお母さんになってしまい、同じ通学路で嫁のことを知らない子はいないほどである。
それが、最近になって障害学級の先生からそろそろ送りの付き添いをやめてみましょうという話があり、少しずつ送りの距離を短くしていき、最近では家の前までで済むようになったのだ。朝の重労働がひとつ減ったと嫁はホッとしていたので、R君も成長したなぁと夫婦で一安心していた。
しかし、昨日と今日の朝、嫁は学校まで行ったのだそうだ。なんでも非常に気になる子を見かけてしまい、見るに見かねて付き添って行ったのだと。その子は今年の春から転校してきた高学年の女の子で、いつも分団の中で孤立していて、後ろの方をゆっくりトボトボと歩いていた。それだけなら気にならなかったのだが、分団というのは基本的にみんな一緒に行かなければなら無いから、分団の班長さんはずっと先でその子の来るのをイライラしながら待っているわけで、近頃では「遅ぇぞ!早く来い!バーカ」「みんな遅刻しちゃうじゃないか!」「走れ走れ!」などと罵る始末。それで慌てて走ってくる子ならいいのだが、その子は一層落ち込むと同時に捻くれてしまって、逆らうように余計ゆっくり歩くような子だった。直感的にこの子に発達障害の気を感じ取った嫁は、どちらが悪いということではなしに、このままでは悪循環になるばかりだと、班長の子には責任を持って送っていくから貴方たちは先に行きなさいと促し、その女の子に付き添って登校したのだそうな。女の子の話を聞くと、登校時には走ってはいけないと言われているのに、「走れ走れ」と言われたことに反発を覚えたということで、嫁はこのやりとりに、物事を言葉通りにしか解釈できない発達障害独特の性質を感じた。この子は学校でも問題行動のある子としてマークされているらしく、校門のところで隣のクラスの先生が立っていて様子を見ていた。「校門で見ているだけで何が分かるのか!」と食って掛かりたい衝動にかられたのを堪え、無事女の子を送り届けたと。で、どうしたら良かったのかと私に相談してきたのだった。
私は逆に、付き添ってあげた嫁の行動を賞賛した。なかなか他所の子に対してできることじゃないよと。嫁はR君の将来のための地盤慣らしだと言っていたが、そうだとしてもそう出来ることではない。ただ、その子のことを障害児と捉えたことに対しては、自分の経験を踏まえて慎重に見守るよう話した。私自身、小学校5年生の時に親の転勤の都合で引っ越した経験がある。転校生というのは自分の居場所を作るのに必死になるものだ。私は少々お調子者で人懐っこいところもあったので割合すんなり受け入れてもらえたが、それでも友達が出来、クラスに受け入れられるようになるまでものすごく不安だった記憶がある。器用に仲間に入っていける子はいい。だけど、障害云々ではなく、もともとコミュニケーションが苦手というか引っ込み思案の子だっている。そんな子が転校すると、相当な辛さがあるのではないかと思う。積極的に干渉してくれる優しいクラスメイトが居れば良いが、そうでなかった場合には不幸だ。ましてや、何が原因か知らないけれど問題のある子という扱いを受けた日には…。最悪、今人間不信になっている可能性だってある。もう少し、親も含めて周囲の大人が配慮してあげればこんなことにはならないのではと思う。きっと孤立してそうなったんだと思うと説明したら、嫁も納得したようだった。ただ、私ってどこまで干渉すればいいのかねぇって。うん。そこで干渉しようという気になる点からして、おまえは優しい。
夫婦ともども同じ考えだが、そういう子をみると放っておけないのは、R君の障害を通して、互いの理解不足によるコミュニケーションの悪循環というものを嫌というほど見てきているからだろうなと思う。相手の立場、考え、或いは障害を思いやって適切な対処をとることで悪循環は断ち切れる。そしてそれを子供たちに教えてやるのは大人の務め。だから、大人がもっと配慮してやらないとね。先生方も大変だとは思うけど、情報を集め、適切な対処をとってほしい。