小学生だったころ、両親共働きだったので、私はいわゆる鍵っ子であった。親は毎日お金を千円ほど置いていっていたのだが、これは「この金で適当に食べといて」ではなく、「この金で夕飯を作っておいて」であった。実は親の教育方針の中に、いつか独立して自活できることというのがあり、その一環として料理は小学生のうちに覚えさせられたのだ。小学4年生の頃なんかは、食材の配達サービスだったかを利用して平日は毎日料理当番をしていた。後に聞いた話では、親としては料理の本を読みながらの料理になるので、自活の教育、国語読解力の教育、手順どおりに作業をする能力などなど様々な教育効果があるとして一石四鳥ぐらいに考えていたんだそうだ。当時の私はなんの反発も無く、黙々と料理をしていたそうだが、我ながらよく素直に引き受けたなと思う。このことは大学進学後、就職後、結婚後とずっと役に立ってきたし、もともと段取りを組むことが苦手な自分にとっては打ってつけの訓練だったように思う。今の坊たちにも是非やらせたい。幸い、2人とも料理には興味があるようで、特に次男坊は障害児学級で調理実習があるらしく、そのこともあってすごく台所に立ちたがる。まだ背が低いので大したことは任せられないが、自分が親にやられたように、自分からもうまく誘導して、料理の仕方というものを教えていきたい。
ところで、自分が初めてやった料理ってなんだっけ?と記憶をほじくってみたら、妙なものを作ったことを思い出した。普通は目玉焼きかカレーライス、野菜炒めではないかと思うのだが、私が初めて作ったのはキャベツとソーセージの醤油仕立てスープである。小学2年生の時だ。作り方は至極簡単で、鍋に湯を沸かしてザク切りにしたキャベツと切り込みを入れたソーセージを投入し、キャベツがしんなりしてきたら醤油で味を調えるというもの。以前、再現してみたが、はっきり言って不味い。湯を少なめにして具がひたひたになる程度にしておけばそれなりの味だと思うが、スープだったので僅かにソーセージから出た肉の旨味、キャベツの甘味を多量のお湯と醤油のみで味付けしただけであり、ひどいラーメン屋のスープを飲んだような味なのだ。それでも、当時、親父は美味い美味いと全部食べてくれた。嬉しかった私はその後何度も作ったのだが、今思えば本当に悪いことをした。(その後この料理はコンソメスープの素を少し入れると言う改良が加えられた)私もいつか耐えて食って見せねばなるまい。