予てからの約束通り、坊たちを豊橋駅撮り鉄ツアー(仮称)に連れて行った。豊橋駅自体、私にとっては懐かしいものであったので、坊たちを連れて行くついでに自分も懐かしさに浸ろうという魂胆である。
義母に西小坂井駅まで送ってもらい、普通列車が来るまでしばらく時間があったので、早速通過列車の撮影会。長男坊は祖母から譲り受けたデジカメで熱心に動画を撮る。普通列車に乗ってからは、先頭車両に移動し、進行方向の風景を楽しんでいた。次男坊は良く通る甲高い声でおおはしゃぎ。ちょっと他人のふりをしたかったぞ。
豊橋駅に下りてからは、すぐ隣に名鉄のホームと飯田線のホームがあり、長男坊はすかさずカメラを取り出し激写。そして、発進しだすと動画に切り替えて撮影。忙しく撮っていた。次男坊は岐阜へ向けて出発する名鉄パノラマスーパーに向かって「バイバ〜イ!バイバ〜イ!」と力の限り手を振り、大声を上げていた。とーちゃんはまた他人のふりをしたくなったぞ。長男坊が納得いくまで写真を撮ったところで次は豊橋鉄道(市電)を見たいというので改札を出ることにした。しかし、私はその前にやりたいことがあった。中学〜大学のころにかけて豊橋駅を利用する度に立ち寄った立ち食いうどん屋「壺屋」で、久しぶりに一杯食べたかったのだ。ここのうどんは特に美味しいわけではないのだが、ちょっと独特の味付けで美味しいのだ。あとかけで頼んでも、刻み上げたっぷりとかまぼこが乗るのがちょっと豪華なのだ。すぐに目的地へ連れてってくれない親父に抗議する坊たちをなだめつつ店へ行ったが、坊たちは「僕今腹減ってないよ」とむくれてしまい、一人で食べることになった。券売機に並ぶと、値段がかけで300円。昔は200円だったがな〜。そもそも券売機じゃなくて、おばちゃんからプラスチックの札を買うやり方だったよな〜と思い出しながら、かけうどんを選び、食券を持ってカウンターへ。一味をたっぷりとふり、少し離れたカウンターでさっそく写真を撮り、箸をつけた。

一口すすると、独特の甘めの出汁が口中に柔らかく広がる。うどん自体はふにゃふにゃの柔らかいものだが、これはこれでいいのだ。ふと見ると次男坊が物欲しげに見上げているのと目が合った。「食べるか?」と箸を持たせると、すごい勢いで食べ始めた。その様を見ていた長男坊が「やっぱり僕も食べる」と言い出した。「言うと思った」と300円を渡すと、ぴゅーっと券売機へ駆けていった。しばらくして、大事そうに自分のかけうどんを持ちながら長男坊がやってきた。聞けば、こういう立ち食いのところでうどんを食べるのは初めてだったらしい。一口食するや、瞠目して「美味い!」と叫び、あとは夢中で食べていた。美味いのはね、きっと大人の世界で食べたからだと思うのだよ。またちょっと大人に近づいたね。
うどんを平らげた後は豊鉄へ。すでに市電が到着していたが、なんだか昔に比べて随分スリムになっていた。

「あれ〜?こんなに小さかったかな?」と呟いたら、長男坊が「これ廃止された岐阜市の市電なんだよ」とすかさず解説。こういうことにはやたら詳しい小学3年生。参った。せっかくなのでちょっとの区間だけ乗ってみることにした。中に入ると、狭い!市バスよりも狭いのではないか?乗り心地はまぁまぁであった。2駅目ですぐ降りてしまい。今度はお父さんに付き合ってくれと、2人を無理やり広小路通りに連れて行った。
広小路通りは、、、。寂れていた。18年もの年月は思い出の風景をこうまで変えてしまうものかと。知っていた店は8割がた無くなっていた。シャッターを下ろしっぱなしの店も多い。ちょっと和んだのは妙なモニュメントがいっぱいあったこと。



昼を嫁と昔よくデートした店でと思ったが、そこも別の店に変わってしまっていた。ショックである。
気を取り直して、次は何を見たいと尋ねたら、渥美線を見ると言い出したのでそちらへ向かった。向かう途中で気がついたが、これまた青春の思い出のあった西武デパートが跡形も無かった。哀しすぎるよ。少々落ち込みながら渥美線の駅へ行くと、見慣れない色の渥美線が。

絶句。昔のクリーム色の重たそうな野暮ったいカラーリングのはどこへいったのか?いや、新しいのも何だか野暮ったいけど。ここでまた長男坊の解説が入った。なんでも名鉄の別路線の車両をここに持ってきたらしい。長男の気のすむようにさせて、さらに南下して駅南側にある陸橋を目指した。しかし、ここは少々眺めが悪かった。また、長男坊としては新幹線が撮りたかったらしく、ここでは全く見れないので、駅の北側にある青い陸橋を目指すことになった。
こういうことになると、坊たちは長時間の歩行も平気だ。途中、自販機でお茶を買い、水分を補給して更に北上。目的の陸橋へ。途中、珍しいものを目撃。桃太郎らしい機関車が、見慣れない車両を引いていた。長男坊によれば、その引かれていた車両は東武なんとか線の新型車両だとのこと。なんか○○系とか言っていたが、そんなのがスラスラ口から出てくるからすごい。大したものだ。
北側の陸橋は新幹線の真上も通っており、パンチングメタルのフェンスに阻まれてはいたものの、デジカメでの撮影は十分出来るところであった。長男坊はここで鉄道カメラマンのようにじっと構えて新幹線を撮っていた。その間次男坊は陸橋をチョコチョコ走り回りながら、時折やってくるJR東海道線、JR貨物、飯田線名鉄線に嬌声をあげていた。

私はというとそんなチビたちの様子に目を細めながら、たまに某ラウンジへ打電したりしていた。天気のいい日曜の昼だった。
次男坊が「腹減った」と言い出したのをきっかけに、陸橋を離れた。長男坊は十分に堪能したようだ。何を食べたいのか尋ねると、次男坊がすかさず「ラーメン!」。しかし、生憎、私は駅前での美味しいラーメン屋を知らない。記憶をあれこれ辿ったが見当たらず、結局最初に目に付いた広小路通り入り口にある「豊栄ラーメン」に入った。私は半チャン半ラーメンの味噌、長男坊はうどんで腹が膨れているというので餃子のみ、次男坊は醤油ラーメンを注文。実は店名が違うが昔ここにあったラーメン屋はあまり美味しくなかったので、今日もあれかなと心配したのだが、食ってみたら悪くない味だった。もっとも味噌味なんてそうそう不味いものではないが。むしろ不味い味噌ラーメンを出す店は終わっていると思う。それはさておき、坊たちも夢中でラーメンを食べ(長男坊、人が目の前で食っていると弱い。結局私のラーメンを食べた)、まずまずの満足度。そろそろ帰ろうというと、帰りは飯田線で帰りたいとのこと。
実は私も飯田線は初めてだったりする。時刻表を見て驚いたが、豊川駅まではけっこうな本数が出ている。飯田まで行っているのが少ないらしい。ちょっと惜しかったのが特急伊那路がギリギリのすれ違いで出て行ったあとだったこと。もう少し店を早く出ていればね。癖になるよう〜っといつまでもスープをすすっている場合では無かったな長男坊よ。豊川行きの車両は2両編成で4番ホームの停車だった。1両編成のは1番ホームである。ちなみに長男坊によれば2番ホームが飯田線の特急だとか特別車両、3番線が名鉄なのだそうな。
飯田線の旅は面白い。まず駅が小さい。基本的に無人駅。そして、車掌さんの動作がアナログなのもいい。どういうことかというと、スイッチひとつでドアを開閉するのではなくて、いちいち鍵を差込み、古めかしい巨大なボタンを押すのだ。次男坊は店で水を飲みすぎたのか、トイレと言い出した。幸い、車両にトイレがあり、そこで用を足した。実は次男坊は鉄道マニアである一方でトイレマニアでもある。新しいトイレを見つけるとそこで用を足さずには居られない。今日、初めて新幹線車両以外のJR車両のトイレで用を足したので、満足したようだった。
目的の小坂井駅に着くと、嫁が迎えに来てくれていた。降りたとき、改札が無いので車掌さんに切符を求められただが、慣れていないので最初何を求められているのか分からず焦ってしまった。こういうときも冷静に切符を差し出す長男坊。電車の旅はこいつに全面的に任せてもよさそうだ。
4時間程度のことだったが、坊たちは十分に堪能してくれたようだ。疲れたけど、私もそれなりに面白かった。今度は天竜浜名湖鉄道でも乗るか、それとも飯田線中部天竜駅まで行ってみるか。ああ。ますますハマっていく。