■
地元名古屋で起きた地下鉄工事談合事件。取り掛かった工事そのものについては、事件によって中断されることはないようだから、その工事の延長線上に住む者としてはホッとしたところである。
しかし世の中厳しくなったものである。社内でも年配の人と話していたら、昔は談合だけで検挙されることは無くて、そこから派生する裏金について厳しく取り締まっていただけだったのが、今じゃ談合そのものを厳しく取り締まっているという話だった。確かに、談合は自由競争を阻害するし、新規参入者を排除する保守的で排他的な側面もある。トップ企業の市場の独占を許すし、彼らの行き過ぎた馴れ合いは業界全体としての新製品開発や企業の成長も阻害するだろう。そういう観点で見れば悪しき慣習といえる。実際、他の業種で自由競争に晒されながら頑張っている企業から見たら、業界を停滞させているだけの慣習にしか見えないであろう。
しかし、である。こと建設業界に関して言えば、建設業の見積の仕組みや日本人の特性故に談合は必要悪ではないかと思う。悪いことだけれど、談合の根が尽きることは無いだろう。
まず見積の仕組みだけれど、基本的に建設に掛かる材料費や工賃・人工賃、機材を稼動させるのに必要な費用等を積み上げていき、最後に諸経費という形で積算価格×◎%の上乗せをしている。一般にこの諸経費と言う奴が建設会社の利益である。もちろん、材料費等にも定価と原価があってその差益も建設会社の利益に見込むのであるが、大した額にならないし、逆に工事上発生する損失等の補填に回されるとみなした方がいいので利益とはみなさない(はず)。見積の仕組み上、製造業と違って、職人さんたちの人工賃は含んでいるが、建設会社の人件費は入っていない。だから諸経費は死守しなければならないのだけれど、実際には一般競争入札や民間の仕事では原価ぎりぎりか、原価割れを起こすことが多い。建設物価はよく調査されているので勝手に高い材料費を書けないし、あまり数字をいじれるところはないのである。よって泣きをみるのは職人の人工賃と諸経費なのである(はず)。そういう仕組みを理解しているお客さんならいいのだけれど、原価=材料費としか認識していないような相手だと容赦なく叩いてくる。物を作るのには材料だけでなく、人手とその人を雇っている会社が存続できるだけの利益が必要なのを理解して欲しいのだが、なかなかそこまで分かる人はいない。だから、安かろう悪かろうの工事が巷に溢れてしまうのだ。発注側がそういうところまで理解し、目標とする品質を保てるだけの価格というものを察して調整してくれると助かるんだけどな。しっかりした市町村だと、建設部の監査があって無茶な価格で入札していないか監視するそうだが。
あと、日本人の特性。場に流されやすく、歯止めが効きにくいというか、理性的に判断することが苦手と言うか。自由競争では、営業は他社に負けじと無茶な価格で取ってくることが実に多い。一概に彼らを攻められないけれど、何故原価割れしてまで仕事を取ってくるのだろうか。原価割れしていることにすら気がついてないアホ営業マンは論外だが。周囲の流れに飲まれず、利益が出ないものからは潔く手を引ける理性的な判断が欲しい。あと、仕事を取ったもん勝ちといわんばかりに無茶な価格を入れるのも、日本人は歯止めが効かないのがいけない。引く判断が鈍いというか。だから、適正価格を決めると言う意味合いでは談合も決して悪ではないと思う。