儺追神事!

外国人も何人か参加しており、彼らも期待と不安の入り交じった表情で今か今かと待っていた。日も暮れ始め、さすがに寒くなり始めた頃、手桶を持った集団が入場してきた。いよいよ神男の登場である。しかし、神男にはダミーがいるから要注意だ。皆、本物の神男を見逃すまいと目をぎらぎらさせながら周囲を見渡していた。しばらくすると、手桶を持った集団が「どけー!どけー!」と怒鳴って裸男共をかき分けながら道をつくり始めた。そして手桶に水を汲んで道の先へぞろぞろと向かっていく。いよいよ登場したのか?と背伸びをしながら男達の向かった先を見ていたがよく分からなかった。しかし、突如としてはるか前方で水しぶきが弧を描き、その周辺でざわめきやら掛け声やらが起こり、にわかに騒がしくなってきた。どうやら神男が入場してきたらしい。ワッと裸男達が駆けつけ参道は瞬く間に怒号と掛け声と熱気と包まれた。私は躊躇してしまったのだが、S部長が「よし行くぞー!」と駆けだしたので慌ててついていった。
ものすごい人混みであった。殺人的な混み具合である。呼吸の苦しさと身の危険を感じた私は、さっと後退し、一旦人混みから離れた。しばらくは離れて様子を見ていたのだが、すぐ裸男の集団が自分がいる方にどっと押し寄せ、人波に飲み込まれてしまった。ボクシングのガードのような姿勢をとりながら必死に周囲からの圧力に耐えていたが、水をぶっ掛けられて身が凍えそうになったり、圧力で息が出来なくなったり、自分が浮いてしまって移動したりと大変だった。しばらく耐えていると、更に凄まじい力が周囲からかかり、生まれて初めて自分の骨が軋む音を聞いた瞬間、右前方の集団がわぁっと倒れこみ将棋倒しになった。すぐ手桶を持った男たちが「ダメだダメだ!」「止まれ止まれー!」「下がれー!」と怒号を発し、事態を収拾させた。私はその隙に集団から脱出した。
その後は神男に触るのは諦め、集団を遠巻きに眺めていた。30分ほどそうしていたら、山門に旗?が立ち、何だろうと見ていると隣のおじさんが「あーあれは神男が境内に入った合図だ」とのことだった。一応これで終わりらしいのだが、まだ境内でも何かやっていそうなので様子を見に行ったら神男を追う行事は続いていた。なんとなく人の流れに身を任せながら境内の奥まで入っていくと、お宮の前で人だかりが出来ており「上げろ上げろー!」と大合唱が起きていた。何を上げるのかと思っていたら、大歓声が起き、よく分からないまま儺追神事は終わった。