身内の諸事情で親父の実家へ行った折、叔父から焼肉をご馳走になった。叔父は小さいながらも建築事務所の所長をしており、普段つましい生活をしているだろうからと、気前良く高い霜降り肉をじゃんじゃん注文してくれた。
霜降り肉。確かに柔らかく、口の中に入れた途端、噛む前にとろりとほぐれて、滑るように喉の奥に消えていった。一切れ目は、まぁ確かに「これが霜降り肉」と感嘆するような味ではあった。しかし、叔父には悪いが、あれは一切れ食べればもう十分である。
私は、肉に対しては、噛み応えと噛み締めた時の肉の旨味、肉汁、喉越し、肉を食ったという充実感を求めている。然るに、霜降り肉は前述の要求を一つとして満たしていない。肉としてはとても及第点を与えられる代物ではないのである。
こんなことを言うのは私の舌が肥えたからなのかもしれないが、霜降り肉を肉とみなすのには違和感を感じる。ただの肉風味の油脂分の固まりであり、そんなに有り難がって食べるものでは無いように思う。少なくとも焼肉の場においては、あれは肉というより固形燃料である。
結局この日は霜降りと、さがりしか食べられず、お腹は脂一気飲みをしたような気持ち悪さがあったが、叔父の手前なんとか完食した。正直もうこりごりなので、次回また叔父に誘われたら、霜降りは丁重にお断りし、赤身の肉を注文したい。